こんにちは、オカジマです。
遠い昔の話になりますが、サンセリフ体とセリフ体(ローマン体)についての記事を書きました。
このときの記事では、ローマン体はセリフの形の紹介しかしていませんでした。
実はローマン体は、タイプフェイスの特徴や年代などからもっと細かく分類することができます。
今回はそのことについて掘り下げてみようと思います。
時代とともに移り変わる、ローマン体のスタイル
ローマン体のスタイルも、時代とともに少しずつ変遷していきます。
古い年代のものから順に見ていきましょう!
1.ヴェネチアン・ローマン
まずは「ヴェネチアン・ローマン」です。

パッと見の印象では、よく見るセリフ体よりも手書きのニュアンスが強い様に見えます。
こちらは、15世紀のイタリアで生まれたスタイルです。今回ご紹介するものの中では、最も歴史が深いものとなります。
そう言われるとたしかに、「古めの文書」みたいな雰囲気を出すには持って来いかもしれません。
そんなヴェネチアン・ローマンにはいくつか特徴があって、そこを押さえると見分けられるようになります!
ヴェネチアン・ローマンの見分け方
1. 「e」のバーが傾いている

まず小文字の“e”を見てみます。赤い線で印がついている部分を「バー」と呼ぶのですが、こちらが右上がりに傾いているのが特徴です。
2. 「O」のアクシスが傾いている

続いて “O”の赤い印の部分、こちらを「アクシス」と呼ぶのですが、これが向かって左側に傾いています。

カリグラフィペンで書いてみるとわかるのですが、これらはおそらく、手描きの風合いが残っているのだと思われます。
3. セリフはブラケットセリフで、斜め

ヴェネチアン・ローマンのセリフの形状は「ブラケットセリフ」と呼ばれるものです。
やはりこのセリフも手描きのニュアンスによって、するどく斜めに傾いていますね。
4. ストロークのコントラストは弱い

そして、ローマン体には太い線と細い線がありますが、その太さにほとんど差がなく、コントラストは弱めです。
ヴェネチアン・ローマンの特徴にあてはまる書体
Adobe Jenson

ニコラ・ジェンソンというフランスの印刷家によって作られた、「Jenson」というヴェネチアン・ローマンの代表格とされる書体をもとに、Adobe社によってデジタルフォントとして作られたものがこちらの「アドビ ジェンソン」です。
オリジナルの書体とは異なる部分もありますが、「ヴェネチアン・ローマン」としての特徴はしっかりと持ち合わせています!
2.オールド・ローマン
続いては「オールド・ローマン」です。

オールドという呼び名の通り、今現在よく目にするセリフ体よりは古めな感じの印象ですね。
こちらはヴェネチアン・ローマンよりもあとの時代、15世紀末から18世紀ごろにかけて広まっていったスタイルとのことです。
オールド・ローマンにもいくつか特徴があるので見ていきましょう!
オールド・ローマンの見分け方
1. 「e」のバーが水平

先ほどのヴェネチアン・ローマンとは違い、”e”のバーは水平です。
なぜだか、バーが水平になるだけでも、少しだけ近代的な印象になりますね。
2. 「O」のアクシスがすこしだけ傾斜

ヴェネチアン・ローマンに比べてアクシスの傾斜がゆるくなったり、ものによっては垂直のものもあります。
3. セリフはブラケットセリフで、斜め

セリフの形はヴェネチアン・ローマンと同じく斜めですが、すこし傾斜がゆるくなっています。
4. ストロークのコントラストは弱め

ストローク太さはヴェネチアン・ローマンよりも少し差がついていますが、まだまだ弱めです。
オールド・ローマンの特徴にあてはまる書体
Garamond

クロード・ギャラモンによって作られた「ギャラモン」です。オールド・ローマンの代表格と言ってもいいかもしれません。
こちらのギャラモンにはオリジナル流れを汲む「ギャラモン系」というものと、誤解からギャラモンとは関係のないジャン・ジャノンという人の活字を、間違ってギャラモンとしてしまったことから生まれた「ジャノン系」という2つの流れがあります。
ご覧いただいているのはAdobe社のGaramondで、調べてみるとこちらは、オリジナルの流れを汲むものでした!
Caslon

イギリスのウィリアム・キャスロンによって作られた「キャスロン」という書体です。
おなじオールド・ローマンのギャラモンに比べると、スッキリとしていてシャープな印象ですね。
3.トランジショナル・ローマン
続いて、「トランジショナル・ローマン」です。

近代的な印象になって、今現在でもよく見るセリフ体の形に見えます。
「トランジショナル」とは「過渡期」とか「移り変わり」と言った意味合いです。
オールド・ローマンからモダン・ローマン(後述)の間の、移り変わりの時期に生まれたスタイルであることからこのように呼ばれているようです。
「トラディショナル(伝統的な)ローマン」ではありませんので、ご注意ください。
トランジショナル・ローマンの見分け方
1. 「e」のバーが水平

小文字の“e”のバーは水平で、少しだけ位置が下がっていて、今までのものよりも少し近代的な印象です。
2. 「O」のアクシスが垂直か、すこし傾斜

“O”のアクシスは垂直になり、手書きのニュアンスはそれほど感じられません。
3. セリフはブラケットセリフで、傾斜がゆるい

セリフは今までの2つと同じようにブラケットセリフですが、傾斜がゆるく、水平に近くなってきています。
4. ストロークのコントラストは比較的強め

線の強弱がついてきて、少しシャープになった印象があります。
トランジショナル・ローマンの特徴にあてはまる書体
Baskerville

イギリスのジョン・バスカヴィルによって作られた「バスカヴィル」という書体です。今現在では、イギリスを代表するとも言われているそうです。
Century

日本でもおなじみの「センチュリー」です。Wordなどでアルファベットを打つとこのフォントになったりします
こちらは作られたのが1895年と、新しい書体なので厳密にはトランジショナル・ローマンには分類されないかもしれませんが、特徴が当てはまるのでこちらに分類しています。
4.モダン・ローマン
最後は「モダン・ローマン」です。

18世紀後半に生まれたスタイルで、「モダン」という名の通り、非常に洗練されているイメージですね。
モダン・ローマンの見分け方
1. 「e」のバーは水平

小文字の“e”のバーは、水平です。
2. 「O」のアクシスは垂直

“O”のアクシスも垂直になっています。
手書きのニュアンスは殆ど見られなくなり、幾何学的な印象も受けとれます。
3. セリフはヘアライン・セリフ

他の3つと大きく違うのはセリフの形状です。
ヘアライン・セリフと呼ばれる、細く直線的なものになりました。
4. ストロークのコントラストが強い

そして、線細い・太いがはっきりしていて、コントラストが強いのも特徴です。
モダン・ローマンの特徴に当てはまる書体
Bodoni

ジャンバッティスタ・ボドニによって作られた、モダン・ローマンの代表的な書体、「ボドニ」です。
どこか高級感も感じられ、現在でも非常に高い人気を誇る書体ですね。
Didot

フェルミン・ディドによってつくられた「ディド」、もう一つのモダン・ローマンの代表格です。
Bodoniとよく似ていますが、よりヨコの線がシャープで直線的になっているものの、エレガンスな曲線処理がなされていて、こちらもとても人気です。
見分け方を雑にまとめてみた
eの傾き

Oの傾き

セリフの形

コントラスト

いかがでしたでしょう。
このようなローマン体の分類とみわけかたを押さえておくと、それぞれの微妙なニュアンスを使い分けて書体を選べるようになるのではないでしょうか。
単純にセリフ体とサンセリフ体を使い分けるだけよりも、少しステップアップした制作ができるようになればと思います。
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