Wordで文書を作っている際、文字を斜めにしたいときに押すのはどんなボタンでしょう?
はい、このボタン(イタリック機能)ですね。
文字を選択してこのボタンを押せば、文字がカクっと右に傾きます。
このように斜めになった文字を「斜体」ともいいますね。つまりイタリック=斜体です。
・・・
と思っていたら、実は大きな間違いでした。
斜めに傾いた文字なのに斜体じゃないとは、これいかに。
というわけで、デザイナーではない私がこのような文字のデザインについていろいろと調べてみました。なんとなくその意味がわかったので、私と同じように文字デザインについてあまり詳しくない方々にとってもわかりやすいようまとめたつもりです。
「イタリック=斜体」
みなさんの中にもこういった認識を持っている方がいらっしゃるかもしれません。
このまま間違えて覚えていたら赤っ恥!!…なんてことは実社会の上ではまずありえないと思いますが、知っておくと豆知識程度にはなるかと思います。
改めてイタリック体を見てみよう
そもそもイタリック(Italic)とはなんなのか、紐解いていきましょう。
まずはこちらの画像をご覧ください。Garamond(ギャラモン)という欧文の書体をイタリックにしたものです。
うむ、たしかに右に傾いている。傾いているから、やっぱり斜体なんじゃないですかね?
じゃあ、Garamondをイタリックにする前の画像も見てみましょう。
おや、同じ書体のはずなのに、ちょっと形が違うように見えます。
比べてみると、イタリックの方はなんだか手で書いた文字みたいです。
そうなのです。実はイタリックとは、「斜体」を表す言葉ではなくて、欧文書体の中でも手書き文字をもとにしたスタイルのことを指します。文字を手で書いたときに生じる右側への傾きを、そのまま書体にも反映しているのです。なるほど、筆記体なんかを見ても右側に傾いてますもんね。納得。
もちろんイタリック体はローマン体とは形が異なるので、同じ書体でもイタリックとローマンは別々に設計し直されています。こう考えると手間がかかっていますね。
つまりイタリックは、「最初から斜めにしようとして設計されたもの」ではなくて、「手書きのニュアンスをもとにしたら結果的に傾いた」ということでしょうかね。
しかしここで気になることがひとつ。サンセリフ体のイタリックってどんな感じなんでしょう?
サンセリフ体なのに手書き風…。あまり想像がつきませんね。じゃあ見てみましょう。
こちらはHelvetica Neue(ヘルベチカ ノイエ)というサンセリフ体です。
あら? イタリックなのに全然手書きっぽくない。これじゃただの斜体じゃないですか。
いや、でもよーく見ると…。
「a」の足がちょっとだけ跳ね上がってますね。この部分は少し手書きっぽさが感じられるでしょうか。
実はサンセリフ体のイタリックも、セリフ体のイタリック同様に新たに作り直されております。
ここまでイタリックについて見てきましたが、いかがでしょう?
イタリックは傾いてはいるけど、斜体そのものを指すわけではなかったんですね。
では「イタリック≠斜体」ならば、斜体って一体何なのでしょうか?
もう一つの斜め文字、「オブリーク」
実は、もう一つ欧文の書体の中には斜めになっているスタイルがあります。それがオブリーク(Oblique)です。あまり聞き慣れないですね。
このオブリークも文字が斜めになっていますが、イタリックとは違って、ただ斜めになっているだけです。
ただ斜めになっているだけ…。では試しに、Universという書体を使って実験してみます。
Universのファミリーにはローマン体とオブリーク体があります。ローマン体を8°右に傾け、オブリークと重ねてみました。すると…
お!ピッタリあいました。
ほんとにただ斜めにしているだけなんですね。
つまり、オブリークこそが本当の「斜体」と言っていいのかもしれません。
オブリークは歪んでいる
しかしながらオブリークのようにただ傾けただけだと、字の形に微妙な歪みや違和感が生じてしまいます。
サンセリフ体のイタリックは、そういった歪みが出ないように視覚的な調整が施された上で設計されており、そのため違和感なくキレイに読むことができます。
うーむ。となると、なぜオブリークというスタイルが存在するんでしょう。歪みが出てしまうオブリークよりも、キレイに調整されたイタリックを使うほうがいいのではないでしょうか。
オブリークについてもう少し掘り下げてみると、面白いことがわかりました。
デジタルフォントに移行した当初はフォントの環境が現在とは大きく違い,DTP[デスクトップパブリッシング]用というよりもオフィスでの使用に焦点が当てられた。そのため細部の調整は最優先ではなく,プログラム上で一括に斜めにしており,そのなごりが現在でも残っている。オブリークがサンセリフ書体に多いのは,細部を調整せず傾けるだけでも大きな支障がなかったためである
―小泉 均、「タイポグラフィ・ハンドブック」、研究社、2012年、62ページ
なるほど。オブリークが存在するのは、このような背景があったためのようです。仕事で書類やなんかを作るときには見た目よりも効率・スピード重視で、斜めの文字を使うシーンがあっても、さほど違和感のないサンセリフ体のオブリークを優先的に使っていたということでしょうか。
しかしここでまた、少し気になることが。
引用文の中でも言及されていますが、サンセリフ体はオブリークにしてもそれほど違和感は出ないようです。それじゃあセリフ体はどうなんでしょう。
セリフ体をオブリークにすると・・・
試しにセリフのオブリーク(傾けただけ)をやってみました。
歪んでますね。「o」や「e」なんかはかなりおかしな形になってしまっています。「a」もなんだか不自然です。
それとなんとなく文字全体が細くなってしまっていますね。
調べてみても、やはりセリフ体でファミリーにオブリークを備えているものはあまり無いようです。さまざまな書体のファミリーを確認してみましたが、斜めのものはイタリックばかりでした。
というわけで。セリフ体を無理やり斜体にしてはダメみたいです。
日本語のイタリックってあるの?
日本語にも斜めの文字はあります。Wordでイタリック機能を使えば文字が右に傾きますからね。
しかしながらここまで調べてみると、日本語の書体にイタリックなんてものはないこともわかると思います。
日本語はもともと縦書きなので、手で書いても英語の筆記体のように右に傾くことはまずありません。なのでイタリックのように斜めに設計し直されたスタイルも存在しません。
なので、日本語の斜体はどちらかと言うとオブリークですね。厳密に言えば、「斜体」というファミリーも基本的には用意されていないので、Adobeのイラストレーターなどでは、変形機能を使って傾けなければなりません。
Wordで日本語の文字にイタリック機能を使ってしまうと、無理やり斜めになっちゃうので結果的にはオブリークになる…。だから、イタリック=斜体みたいなイメージがあるのかもしれません。
まとまっているのかいないのかよくわかりませんが、つまりはこういうことです。
じゃあ結局、イタリックとオブリークはどう違うの?
イタリック=手書き文字をもとに設計されたスタイルであり、結果的に右側に傾いている。ただ斜めになっている文字のことはイタリックとは言わない。
オブリーク=文字を無理やり斜めにしているもの。つまり斜体。日本語で斜めになっているものはイタリックではなく、どちらかというとオブリーク。
以上がまとめです。
どちらも右に傾いたスタイルではありますが、その形や成り立ちは少し違うみたいですね。
いかがでしたでしょうか。
正直、「厳密に使い分けたから何なの?」と問われれば、特に何にもなりません。
「おい、それはイタリックじゃない! 斜体だ! オブリークだ! 気安くイタリックとかいうな!」などと口うるさくいえば、間違いなく嫌われます。
なので人間関係を円滑にするためにも、この記事に書いてあることは、ちょっとした豆知識としてひっそりと心のなかにとどめておきましょう。
投稿者プロフィール
- 皆さまのアイデアやヒントの源となるような情報を発信できるように心がけています。
最新の投稿
- 知る2018.06.12【和文フォント】ウェイト表記についておさらいしよう
- 知る2018.05.22ただ使っているだけじゃ気づかない! 日本語フォントに隠されたストーリー
- つくる2018.05.01【予算別】ゴールデンウィークこそハンドメイドでモノづくりがオススメです
- おしらせ2018.05.01北ガスジェネックス様の「ECOラボ」に出演させていただきました
広告